生活の豊かさと五感に正直であること Vol.3(text by 古川 真由子)

11年前、ちょうど六本木にミッドタウンができると案内をいただきオープニングに足を運びました。その1Fにある、真新しいDEAN & DELUCAの店内に入ったとき、いくつも整然と吊り下がる釣鐘のような形をした照明がすぐ目に入りました。

あ、彼女のデザインだ と嬉しくなりました。
それは、セシリエ・マンツというデザイナーがデザインしたCaravaggio(カラヴァッジオ)という照明でした。
ミニマムなフォルムだけれど、空間への光の拡げ方が細密に計算されており、なんだか今までも当たり前にあったような普遍性がありながら、さりとてありそうでなかったデザインでした。

それからしばらくして次に彼女の作品で印象に残ったのは、Bang&OlufsenのBeolit 12でした。 (現在はBeolit15、17と進化を遂げています。)
それまで機能優位かつハードなデザインが多かったオーディオに新たにインテリアオーディオというジャンルが急にやってきたようなちょっとした衝撃がありました。

丸みを帯びた金属製の収納ボックスのような箱に皮革のバンドがついていて、まるでピクニックにそのまま連れていきたくなるような愛らしく、気の利いたデザインでした。
本体の上の小物入れのようなトレイにスマートフォンを置いて音楽を楽しむというスタイルもこれまでになくとても洗練されている。それに価格も少し検討すれば手に届くもの・・
すぐに頭の中の引き出しの仲間入りをしました。

照明もオーディオも、部屋にあれがあったらな、なんてしばらく思っているうちに彼女がうみだすプロダクトや色のバリエーション、新しいデザインがどんどんでてきて、魅力的な選択肢が日増しに増えていきました。

私が彼女のデザインで一番好きなのは、ものづくりの背景にたくさんのケーススタディがあったことが製品を通して読み取れることです。

機能や品質へのこだわりは最終形に至るまで緻密につきつめられ、彼女の丁寧なアプローチ、ものづくりから、職人と称されることもその理由でしょう。
それは、Bang&Olufsenのプロダクトはもちろん、ほかに彼女が手がけるどの家具やプロダクトに関しても同様に感じます。

同時に、メーカーが彼女の細部にわたるこだわりに応えられる力をもっているということも感覚的に理解でき、製品そのものに安心を覚えるのです。彼女の感覚に見合う良いものづくりができる、同じ熱量の品質やこだわりが存在し、融合してできたと思うと、なんだかとても嬉しくなります。彼女にはデザイナーとしてそういった力があると思っています。

クリーンで明快なつくり、そしてものに対する愛情と、使用する人への愛情が感じられる親近感のあるデザイン。女性ならではの柔らかな視点と知的で多彩な色彩感覚の素晴らしさ。

それは、シーズンごとに発表される新しい色彩のひとつをとって見ても明らかで、はっとさせられるような感覚が毎度のように存在します。

その感覚はbeoplayやCaravaggioに出会った10年以上前から廃れることなく進化し続けている彼女の姿そのものであり、そのインスピレーションに私はまた心酔しているのだと思います。